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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「ど、どッちの方だい」

「岬だよ」

「岬ッて?」

「ここを真ッすぐさ、そこにな、魚見小屋があるから、すぐと知れるだ」

「あ、ありがとう、おばさん」

いいすてて勢いよく走りだしましたが、何か棒のようなものを蹴って、砂の上につンのめりました。

そして、前へころんだついでに足で蹴ったその棒を拾って、よい獲物とばかり小脇に持ちこみましたが、その先ッぽに、鋭利な刃物が光っているところを見ると、これは、漁師の置忘れた銛という物騒な道具に相違ありません。

波はごうごうと吠えています。はや、夜のとばりは相模灘をいちめんにとざしていますが、沖の一線は、月明りのように空が冴えて、しぶきをあげる波明りと共に、磯の道は案外足もとがよい。

と――

やがて次郎のあえぐ道が、岬の鼻へ向ってのぼりになって来たかと思うと、ごうッ――と耳をなぐる松風の間に、ちぎれ飛んでくる大勢の人声。

たしかに魚見小屋のあたりです。

きッと、空の明りにすかされる岬の松のかげを睨んで、

「畜生、見ていろ」

と、くちびるを噛んでつぶやくと高麗村の次郎、山に鯨を見つけでもしたように、モリを持ち直し道端へかがまりました。