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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

こいつのドギモを驚かせて、御三家の邸内に足あとをつけてやるということは、日本左衛門が好みそうなところで、好まれた方こそ、まことに禍いなるかなであります。

だが、奥書院まで、幾室かの間数を通って検分したところでは、格別目星しい品物もなく、奇抜な仕返しの手段も思い当らないので、今かれは、床の間に腰をおろすと、

「ふん……部屋住みの万太郎、この様子じゃ、だいぶ手元をつめられているな」

と、家財調度を目づもりして、大盗らしい愍笑をくれながら、また、

「さて? ……」

と、あだをする手段を考えている。

運わるく、その床の間にうやうやしく置いてあったのは万太郎の兄にあたる当主義通が、西之丸に隠居した前将軍家宣から貰いうけた拝領面――出目洞白一刀彫の鬼作と称せられている鬼女面を秘めた一箇の箱。

持って帰るには、手頃であります。

その面箱をゆすぶッて、中のコトリという音を聞いただけで、日本左衛門の六感は禁じえぬ欣びにくすぐられました。

一方。

万太郎の部屋ではその万太郎と金吾とが、何か密話に他念がなかったが、その相談の結果、かれが尾張城から持ち出して来て秘密に仕舞いこんでおいた「御刑罪ばてれん口書」