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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ジロジロと辺りを見ながら何か思案をしている風でもあります。何者かと思うと、それはまぎれもなく日本左衛門。
切通しで、万太郎と金吾の為に、折角な場合を邪げられて姿を消したが、かれは、それで諦めて帰るような人間ではない。一時、棟梁屋敷の石塀をこえて、ポンと、中へ姿をかくしたのは方便で、金吾と娘のあとをつけて、遂に、切支丹屋敷のそばまで見届け、その金吾よりも一足先に、提灯の印でそれと知った尾州家の邸内へ、先廻りをして潜んでいた――というのが、あれからの日本左衛門の行動でした。
目的の娘が、切支丹屋敷へかくれたまで見届けたなら、何も、危険を冒して、こんな尾州家の奥深い殿中まで、忍んで来る必要がないように考えられるのは、善良人の思いそうなところで、盗賊心理はまた別であります。
では、日本左衛門、ここへ何しに来たのかというと切通しでブマをした腹いせに、その意趣返しをしに来たものに相違ありません。
復讐! あだをしてやる!
すべて盗賊は仕事の上に、その快味をも忘れぬと言います。本来の物盗り以上に、仕返しはかれらの血をわかせるもの。しかも、今夜のことは、相手が尾張中将の七男徳川万太郎。