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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
そうすると浜の方よりは、根府川の街道へ急いで行ったかもわからない」
もう血眼です。
かかる場合の女の前にはどんな宗教も光がないといいます。ましてやお粂にはあの伝法と世間を怖がらない強さがある。
「ホ、ホ、ホ。わたしも丹頂のお粂、どんなことをしたッて、逃がしゃアしないから!」
たれにいうともなく罵ッて、根府川街道の方へ道をかえて走りだしてゆく。
そして次第に息ぎれが激しくなるにつれ、夜化粧のおしろいに青味がのぼって、いわゆる夜叉の形相をそれにほつれる黒髪が作ってきます。
と。――丑の刻詣りのようなその姿が、本陣今井屋の四ツ辻をよぎろうとした時、
「オオ丹頂の姐御」
不意に横からよぶ者があって、またすぐに違って次の声が、
「姐御のさがすものはここに居ますぜ」
と、手をあげました。
背筋へ水をかけられたように、お粂がキッとうしろを見ると、そこに四、五本の芽柳があって、そこに四、五人の黒小袖。
かなり取りのぼせていたお粂の耳にもそれはハッとひびきました。江戸なら知らずこの熱海で自分を丹頂の姉御とよぶものは一体たれなのか?
「お久しゅうございました」
お粂があきれている前へぞろぞろと姿をならべたのは余人でもありません、四ツ目屋の新助、尺取の十太郎、雲霧の仁三、千束の稲吉など。