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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「オ、違ったかナ?」

と相良金吾は、わざと田舎者めかした菅笠を上げて見なおしたが、間違いはない、茶屋町の軒ならび、似よりの店もこの一軒よりほかにはありません。

だいぶ聞いた話とは違っている。――新助という若い男が店にいて、表面は手固い小間物店に変りないが、実は盗人の寝泊りする家で、私はそこで買物をしたが因果で、怖ろしい男に切通しまでツケられたのでございます。――という風に、あの切支丹屋敷の娘は、途々自分に話したが? ……

「それも嘘か。あの娘の言葉も信じきるわけにはゆかない」

と金吾は迷いました。

ままよ、どうせ田舎武士に作ってきた風体、かまうものか、といった調子で、かれはズカリとそこへ入って、

「物を聞きたい!」

わざと、ぶッきら棒に、

「新助という手代のいる店は当家か?」

あッけにとられたかみさんは、積みかけていた根掛けの桐箱を抱えたまま、

「いいえ……」

「では、年頃二十七、八、苦み走ッた五分さかやきの浪人者が、ここに寝泊りしているだろうな」

「……存じません、お門違いじゃございませんか」

「たしかに、茶屋町の四ツ目屋と聞いたが」

「あー、それでは、前の方でございましょう」