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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
――そりゃあ時と場合によりけりで、好きな男があるというなら、熨斗をつけてやらない限りもねえけれど、対手に依る!
相良金吾! おれを仇とねらッて屋敷を出ているやつ! おれの大望に邪魔だてをする万太郎や釘勘と同腹のやつ! そいつに熨斗をつけて進上するわけにはまいらねえ。――いや、かりにおれは見て見ぬふりをしてやるとしても、側の奴らが承知しないことは火を賭るよりも明らかな事。ほうッておけば、いつか一度は、黒衣の早いのがてめえの寝首をかきに出かけて、親分こうしてまいりましたが――と開き直るにきまッている」
風のない月光の海――
珠を洗う波の音。
日本左衛門は、ふと、ことばを切って、あなたの街道を飛ぶ一点の灯に注意していました。
しかし、それは熱海を九刻立ちで江戸へ急ぐ早飛脚の提灯とわかりましたので、またお粂を足元に見て、
「もうくどい事はいうまい。金吾と別れろ」
「…………」
「お粂ッ」
返辞がないのでやや鋭く、
「金吾と手を切って、おれや子分の目の届かねえ所まで落ちて行け。さすれば、てめえの命だけは助かるというもの、これがおれの最後の情けだぞ」
と、足を放して突きやりました。