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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
そして自分は、先に小田原へ向った金右衛門や子分のあとを追うべく、砂地に捨ててあッた編笠を取り上げますと、
「待ってください親分」
何と思ッてか、お粂も急に立ち上がって、その編笠をつかみながら、
「じゃ親分、あなたとは、今夜ではっきり別れましたね」
「よし! 金吾ともきッと切れたな」
「その御親切はわかりましたが、私も丹頂のお粂、卑怯な嘘はいいますまい。ここでおことわりしておきますが……親分え、お粂は死んでも相良さんとは切れない覚悟でございますから、それだけを承知していて下さいましね」
「なんだと」
かぶりかけた編笠が、ふたたびその手に戻りかける。
虫をこらえていた心へ、女が投げつけてきた捨鉢なことばに、
「お粂ッ、もう一度いってみろ」
むッと、日本左衛門の顔いろがうごきました。
この男の憎念を買ったが最後、それがどんなに恐ろしいものかということも、知りぬいているお粂ではありましたが、持前の気性がこじれて、その恐れ気もなく反撥的に、
「はい、どんな目にあおうとも、相良さんのことは思いきれない! 金吾さんとは手を切れないといッたんですよ!」
糸切歯に唇をゆがめて、二度まで、男の名をことばのうちに呼んだものです。