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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

と、あきれている百姓神楽の連中をながめ廻して、空うそぶいた面構えを、高い防風林の梢に向けておりました。

「いや、とんでもない事、たれが昔なじみのお前を、訴人してよいものか」

異口同音にいいわけをすると、伊兵衛はクスッと鼻で笑って、

「それでも、昔なじみと心得てくれるのか、やッぱり生れた村はいいものだな」

「四、五年姿を見せなかッたが、その永い間、一体どこを飛び歩いていなすッたの」

「べらぼうめ、道中師という小稼業人に向って、どこにいたときく奴があるものか。水のまにまに風のまにまによ」

「へえ、のん気だの、相変らず」

「のん気というなあ、お前達の事だ。いつもヒャラリコドンツク、百姓の合間に、神楽囃子をやッていれば、すぐ五十年の年貢納めが済んでしまう。おら、ここへ来ると、お前たちが羨ましいな」

「じゃ、なぜこの村に、大人しくしていないのじゃ」

「性分だ。持ッて生れた根性を、おれにだッてどうにもなりゃしねえ」

「そうそうおめえを育てたお常婆さんも、それを案じて死んだッけ」

「へえ、お常婆さんは死んだかい?」

「まだある、原の嘉助小父も、お前のたッた一人の身寄りだが、とうとうこの春先死んでしまった」