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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「待てッ」

いきなり、四、五人目の――その主人と見える立派な鞍へ飛びついて、

「聞き捨てにならぬ暴言、あれはその方の家臣であろう。待てッ、降りろ」

と、引きずり降ろさん血相です。

驚いたのは馬上の武家――

「あッ……」と、万太郎の力に引かれて、グルリと駒を廻しましたが、

「やあ、尾張の七男坊」

「なんじゃと」

「どうした!」

といわれて初めてその姿を見上げると、鞍上からなれなれしい笑顔を向けている者は、ちょうどかれと同年配ぐらいな若殿。

弓の稽古をしているところを急に飛んで来たものとみえ、手に弓懸を着け、木綿の粗服に馬乗袴という姿で、一見、旗本の息子ぐらいにしか見えませんが、これは万太郎とは莫逆の友だち、紀州和歌山城の宰相頼職朝臣の世嗣、すなわち、紀伊家の吉宗です。

「やあ」

と、万太郎はてれました。

吉宗は如才なく、

「火急の場合とて、家来の暴言、悪く思うてくれ給うな」

「何か、御城内に?」

「オオ、御危篤」

「えッ、家継公が」

「御不予重らせられた御容子なるによって、急ぎ登営あるべしと、三家を初め、諸公がたへも、老中から御急使が廻ったばかりのところ」

「では、いよいよ将軍家御代がわりか」