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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
どれも、式服を着けた武家ばかり――そして江戸城の正門へ一散に。
「はて、なんだろう?」
彼は鎌倉河岸にたたずんで、葉柳の糸をへだてた所から、道三橋の方へ笠をあげておりましたが、
「何か、お城の内に変事があるな」
と思った直覚が、いつかしら外濠に沿って大手の方へと、万太郎の足を向けさせている。
見ると、諸門は雑沓です。
ことに大手の濠際には、下馬下乗、あまたの大名や旗本の駕籠がこみ合ッていて、供待の者どもが憂色をつつんでいる様子。
その騒ぎを横に見て、
「はて、ばからしい。将軍家が、嚏を一ツしてもこの騒動、先頃うち、御不例といううわさであったから、多少模様でも悪いのかもしらぬが、その病人へこう押しかけては、かえって容体を悪くしてしまうだろうに」
と、苦笑をもらして行き過ぎようとすると、
「下郎、邪魔だッ」
またもや、日比谷の方から砂を蹴立てて来た一列の騎馬に怒鳴られました。
下郎ということばにムッとしましたが、万太郎の方も充分に悪い。当然歩みよい柳並木の道端もあるのに、かれは大道の真ン中を、ふところ手で歩いていました。
しかし、尾張中将の七男である万太郎の大名気風が、道ばたをかがんで歩かない癖になっているのも自然で、それを知れば騎馬の先頭も、そんな罵詈は浴びせなかったでしょうが、万太郎は堪忍がなりません。