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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「なんでも、後見の間部詮房とお傅役の月光院様とが庭でいちゃついていて、小さな将軍様に風邪をひかしたのが、こんどの病気の因だという話だが」
「わかりもしねえ大奥の事を、あんまり見て来たようにいうない」
「いや、おれは、確かな筋から聞いているんだ」
「じゃ、こんどの将軍様が、水戸から出るか、紀州から出るか、尾張から出るか、てめえ知っているか」
「それがもめているんで、将軍様はとうに死んでいるんだが、その喪っていうやつを、世間へ触れることが出来ねえんだとよ」
「へえ」
「紀州から出すか、館林から出すか、尾張から出すか、このけんかだ」
「なるほど」
「水戸様は館林をかついでいるし、間部は紀州をかつぎ上げている。そこへまた、尾張から引ッ張り出そうとしている連中もあって、三ツ巴に、こんがらかッている」
「ありそうなこッた。だが、紀州から出るとすれば、たれだろうか」
「まず赤坂に屋敷のある吉宗公だろう」
「尾張とすると」
「万太郎様だね。年頃からいっても」
「万太郎?」
「ウム、尾張の徳川万太郎」
「聞いたようじゃねえか、万太郎ッて……」
「そういや、聞いている名だ」
「あっ……いけねえ。あいつが将軍家になぞ納まッたひにゃ、それこそ親分はじめ、おれたちの稼業が、上がッたりになってしまう」