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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
そして仮面は、あのために迷惑している市ヶ谷の兄の屋敷へ送り返し、自分は心やすく夜光の短刀を探してみよう。
「ああ、それにつけても、金吾が居たならば……」
と思う道の先へ、小さな蝶の群がうららかに飛び乱れて、そこに、人待ち顔な一挺の女駕。
はて?
樵夫とも浪人ともつかない侍が、その砂子塗りの女駕を取りまいて、のどかに煙草をふかしていますが、駕は無紋、付人は異様な郷士?
「誰を待っているのであろうか」
懐中絵図を畳みこんで、万太郎は足を休める振りをしながら、しばらくそこに立ち止まり、その女駕の前を通り越してしまうのが惜しまれました。
馬春堂日記
「どうしたのだろう」
「ウム、もうお見えになりそうなもの」
「道を更えてお帰りになったのではないか」
「すると、こんな所に、ゆうゆうとお迎えの駕をすえて待っていたとて、いつまでおいでになる気遣いはない」
「そんなはずはあるまい。御隠家様のお手元へまいった手紙によれば、今日熱海から江戸へ着いて、新宿追分よりこの道を通ってお帰りになるという前ぶれ」
「おかしいな」
「まあ、もう半刻もお待ちしてみよう」
そこに一挺の女乗物を置いて、人待ち顔に往来を眺めている郷士風の侍のささやきを聞くと、これはまごうかたなき高麗村の人々です。