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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「ウム。仇ッぽい櫛巻きの女? ……」

「あいつは、丹頂のお粂といって、名うてな女賊ですぜ、どうです、どこかの茶屋のかみさんという風体、まさか、女の盗人とは見えなかったでしょう」

「ほ、あれが」

と、うしろを見たが、黄ばんだ桜並木の間を織る行楽の人通りに、もうその姿は見つからない。

こういちいち釘勘の目を借りてみると、世間はあたかも百鬼昼行で、そこにもかしこにも、面をかぶった変化の者が、すまして歩いているのに驚かされる。人を見たら泥棒と思え――成程なアと金吾は今さらに思うのでありました。

馬道へ出ます。

ここへ出ると、所々の人家のきれめに、枯れ尾花のくぼ地や、草鞋を売る店や、駄賃馬の往来などが頻繁なので、あたりは急にひなびて見える。

遊冶郎がかッたるそうに帰って来る吉原組の駕もあれば、昼狐につままれにゆく、勤番の浅黄裏もぼつぼつ通る。午後の陽ざしに、馬糞の埃が黄色く立つ。

「どこへ行くのだろう?」

金吾のいぶかりも今は一ツの好奇心でした。

千住か、田中あたりか、真つ崎の森か、まさかこの順道をそのまま吉原へ入るのではあるまい。

などと思っている間に、とある横丁で、釘勘の姿がふッと見えなくなっています。