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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「なんだい、その真似は」
「小判を勘定するところよ」
「夢でもみているんじゃないかいこの人は。おいておくれよ、ばかばかしい」
「何が夢だ、まア聞けよ。――中仙道でもあれくらいな玉のハマる宿場はたんとはないぞ。板橋や大宮じゃ、江戸に近すぎてあとくされが心配になる。まあ、軽井沢だな、軽井沢の遊女屋は草津へゆく江戸者がみんな財布を病気にするところだ。あそこの扇屋か二葉屋あたりなら、アノ上玉で百両や百五十両は右から左に出すだろう」
「じゃ、おやじさん、あの奥へ連れて来た娘をおまえ売り飛ばすつもりなんだね」
「でッけえ声をするなよ。でッけえ声を。――だから貧乏人の婆さんに、めッたに小判の話はできねえ。売り飛ばすというと、なんだかおれが悪党らしくなるが、親もない、家もない、行く先もないという女の身の落着きをつけてやるんだから、大した功徳というもんじゃねえか」
と、ひとりで理屈をつけましたが、吾ながら、少し声の弾んでいたのに気がついて、
「だが、次郎には喋舌るなよ。あいつ、おれの子にも似合わず、どうも重盛みたいに野暮でいけねえ、いつもおれのする事を聞きほじると、生意気に諌めだてして、それにゃ、浄海入道も閉口だからな」