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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「だけれど、よくお前さんのような、すごい人相をしている年寄について来たもんだね」

「馬鹿アいえ、おれのような、親切なおじいさんがあるものか」

こう笑いながら半五郎は、お常に追い注ぎをさせて、杯を膳の隅へおき、

「――歩きながら話を聞いてみると、まんざら気狂いでもなさそうだ。家はときくと、無いという、親はと聞くとカブリを振る、行く先はときくと、自分でも分らないといやあがる……。は、は、は、は……そこでお連れ申して来たのよ、こんな功徳はねえだろう」

「だが、おやじさん。そしてあの女をどうする気?」

「どうするって、何が、どうだ?」

「まさか、その年で、浮気沙汰でもないだろうしさ」

「有難いな、おめえもその年で、すこし妬いてくれるところは有難い。――だがお生憎さまだ、色よりは慾の一本道、すこし餌をならしておいて、中仙道の流行ッ子にしてやるのよ」

「流行ッ子たあ、なんのことさ」

「――善哉善哉。そんなこたアあとで分るよ。お常、前祝いだから今夜アもう一本つけねえ」

「ごきげんだよ、いつになく」

「そりゃ、うれしい事のある時は、酒も素直にまわるというもんだ。おめえも喜びねえ、近いうちにゃ、チリン、チリン、チリン……悪かアねえな、うふ、ふ、ふ、ふ……」