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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

――また源平前期の頃おいには、村山党、畠山党、児玉党などのいわゆる武蔵武士の某とよぶ武将が床几にしたかとも思われるこの石。――世も移っては西行がぽつねんと夕暮の富士に見とれ、芭蕉が昼顔の句をあんじながら足を休めたかも分らないこの石に、今は――切支丹屋敷を追われた混血児のお蝶が、夜明けの霧の寒さにジッとかがまって、自分の未来におののいている……。

飛耳張目

江の島から藤沢の宿を駕で通して、大山街道の一立場、厚木の町へ這入ッたふたりの侍があります。

駕は、秦野煙草の荷元で、土地でも信望もあり大店然とした構えをしている、秦野屋九兵衛の門へ横づけになる。

「若い衆さん、お茶を飲んで行ッて下さい」

駕の者をねぎらッて、手代が酒代をつつんで与えている間に、二人の侍はおッとりと駕を抜けて、衣紋ただしく、

「九兵衛。突然におとずれて、家内を騒がせて気の毒だの」

「どういたしまして」

羽織を着かえて、店先へ迎えに出ていた亭主、額を畳につけて、

「今朝ほど江の島のお宿から、立ち寄ってつかわすという、有難いお手紙、大山街道から江戸表へお帰りでは、廻り道になるものを、わざわざお訪ね下さいまして、冥加の至りに存じます」