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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

これは嘘です。

うわさが生んだ大げさというものです。

怪力乱神を語ることを好む人の通有性が、あざむく気もなくいい触らす誇張です。

とはいえ、その晩その女に出会ったものは、実際、このくらいに感じたことはほんとでしょう。伝説はそんなところから生まれてゆく。

さるにても、女は何処まで行くでしょう?

月も野末にかたむいてくる。

そして、暁の支度が、うッすらと白い霧が立ちこめて来ます。

「ああ……」

やがて――

裾は露に、袖は夜霧に、ビッショリとぬれ果てて、女もさすがに疲れぬいてしまったものでしょう、道ばたの丸い玉石に腰をおろして、ジッと仮面をうつ向けました。

眠る様子でもありません。

膝をかかえて夜の白むのを待とうとするふうでもない。

過去か、行末か、今の身の上にか、とにかくそうした思いに、深くなやみ沈んでいる様子。

思えば、世の相こそ不思議ではありませんか。

草がのび草が枯れ、いつも蒼々たる野分のそよぎがあるほか、春秋一様な転変をくりかえしているに似た武蔵野の原にも時と人との推移があります。

遠い昔、推古朝の世には、高麗の移民が野馬追いに疲れて腰をかけたかも知れないこの野中の玉石。