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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
いいかね。用があったら手をたたきますから、つまらない事でいちいちわしを呼びに来てはいけない。第一、お客様の御酒興を殺ぐしな」
着物の紙ぼこりをたたき、襟前をつくろいながら、こういい残して奥の一間へ行く。
人払いをしてあるので、中座敷から先はひッそりしています。そこの、ふすま際に膝をついた九兵衛は、
「ごめん下さいまし」
と、静かにおとずれて、畏る畏るすべり込む。
目で迎えた客の二人。
「九兵衛、ここは大丈夫らしいな」
「ええ、安心なもンです」
「じゃ、ひとつ、こうなろうじゃねエか」
と、膝をくずして胡坐を組むと、
「ウム、気をゆるしてくれ」
と、九兵衛もあとをピンと閉めて、
「――だが、どうしたッていうんだい二人とも。まるで、化け物みたいに不意にやッて来て、堅気の暖簾を掛けているこッちはまッたく面食らッたぜ」
客も客なら、主も主です。何とも、いぶかしい打解けよう。
奉公人を遠ざけて、そこの一間を閉めきると、動作、ことばづかい、最前の店先とは主客の様子がガラリと変っている。
「九兵衛、しばらくだったなあ」
と、肩で笑って、
「堅気の旦那で納まッているおめえの所へ、迷惑な居候だろうが、当分世話になるかも知れない。