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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

ゴトン……ゴトン……と諧調をもって廻る水車の音に、先の話し声が消されがちでしたが、その代り彼が忍んだことも、鋭敏な彼等に気づかれていない。

「じゃ、釘勘はあれから、一たん江戸へ引返したのだな」

何かたずねる声は日本左衛門。

「それは確かです。充分突き止めてまいりました」

「そうか」

といって次のひとりへ、彼の質問が移ってゆく。

「尾州家のお坊っちゃんは?」

「…………」

返辞がない。

「だれだ、万太郎にかかッていた者は」

「あっしです」

「稲吉か」

「へえ」

「なぜ黙っている?」

「実は、今夜の寄合までに、よく居所を突き止める事ができなかったんです。根岸の屋敷を出た後、御府外へ向ッた事だけは分っておりますが」

「お蝶は?」

言下に雲霧が答えました。

「あいつあ、野鍛冶の半五郎にだまされて、あっしが寄合に戻って来る日の昼間、その鍛冶小屋に連れ込まれました」

「馬春堂の様子を探りに行ったのもおめえだな」

「いえ、そりゃあ、尺取です」

「十太郎か」

「へい」

「あいつは毒にも薬にもならねえが、どうしているこの頃は?」

「伊兵衛に助け出されて、高麗村から逃げだしたあんばいです」

「そして」

「あとの事はまだ探りにかかりませんが、多分、中仙道筋へもぐり込んだものと観ております」