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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
前の岩井染之助一座の者でしょう、人手をかりて駆け出して来たのが、提灯の明りを翳して口々に、
「おお、あすこにだれか倒れている」
「あれだ、あれだ」
と呼び騒ぎながら、土手を降りて川床の草地へ集まって来る。
こういう場合に経験のつんでいる土地の船頭らしい男が、
「美い女だなあ、すごいような美い女だ」
生きるか死ぬかと、はたの者が心配している最中に、のん気なことをいいながら、みずおちを押して見て、
「大丈夫、大丈夫。ろくに水をのんでいねえから、気がつけば確かなものさ」
ゆうゆうと手当をしてくれるのが、かえって頼母しく思われて、周囲の者をホッとさせます。
ところが、一座の御難はこれに止まらず、またぞろ、そこへばらばらと駆けて来た朱文字の提灯があって、
「その方たちは、岩井染之助一座の者であるか」
と、権柄な声。
見ると厚木の天領役人と四、五人の手先です。何よりはその手にある十手の光にハッとして、
「左様でございます。手前どもは上町の小屋に興行のお免許を願っておりました染之助一座の楽屋者に相違ございません」
「その染之助はこれにおるか」
「へい」
と、うしろの方にふるえ上がっていた眉のない男が、衣裳下の襦袢の衿前を合せながらオズオズと前へ出て、