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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

知っているなら教えてくれい」

次郎の眼は改めて、万太郎の風采を見直しておりましたが、

これは伊兵衛や馬春堂の類の人物ではないとやや安心したらしく、

「その高麗村はネ」

と立って――あなたの連山を指さしながら、

「あの右に見える物見山と、左の奥に見える大丹波の間を、グングンと峡へはいッて行った所だよ。だが、それよりもッと分りいいのは、この入間川の水に沿って、何処までも何処までも、流れの上へゆくとそこが高麗村さ」

「では、飛んでもない方角ちがいをしていたわけだな」

「ここは女影の迷路といって、だれでも、旅の人は迷うのが当り前だ」

「女影の迷路? ……話に聞いた女影の里というのはこの辺であったか。道理で……」と万太郎は笠をめぐらしながら、

「この先へまいって、もしまた、道に迷っては甚だ難儀に思うが、お前、わしの案内をしてその高麗村まで同道してくれぬか、駄賃は何程でもそちの欲しいほど遣わすが」

――と言うと、次郎の眼がまた急に曇って、

「おいらも高麗村へ帰りたいのは山々なんだけれど、わけがあって帰れない。おじさん、一人で行っておくんなさい」

「ほウ、では、お前は高麗村の者であるか」