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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「留守か……」
がっかりして辺りを見廻していると、ちょうど鍛冶小屋の横手にあたって、たれか、洟をすするような泣き声がもれる。
何の気もなく、万太郎は、静かにそこへ足を運んで行ったのです。
見ると、羽目板の裾に、犬のようにうずくまッている少年がある。
顔は見えないが高麗村の次郎でしょう。次郎は太陽に謝まッているように、膝をかかえて泣いていました。
たれか近づいて来た跫音に、ふと顔を上げた高麗村の次郎。
この辺では見かけない人品のいい侍が、ジッと編笠のうちから自分を見つめておりましたので、いかにも間が悪そうにあわてて、涙の目をそらす。
万太郎はそれへ立ち止まって、
「お前はこの鍛冶小屋の小僧か」
と、驚かぬように、やさしく声をかけて見ました。
暫くこッちを向きませんでしたが、やがて次郎、涙をかわかして、
「おいらかい?」
「うむ、少々道をたずねたいのだが……」
「ああ、道に迷った人か」
「高麗の郷というのはこれからどう行ったらよいのか、お前は存じておらぬか」
「高麗村へ行くの? おじさん」
「そうじゃ、そこの御隠家様と申す屋敷をたずねあぐんで、昨日からこの辺を迷うている。