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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
てんやわんやの素人療法で、どうやら出血だけは防ぎましたので、それを一人が荷駄の背なかに抱え、また気味のよくない夜旅がつづきました。
行くこと半里ばかり、一軒の灯を見ますと、次郎はその家へ飛びこんで、また野槍をさげながら出て来ました。
「今のは、お前の家かね」
一行の者が、たずねると、首を振って、
「ううん、おいらの家じゃない、知ってる家だ」
「おまえの家は」
「女影の北だから、もっと、ずッと向うの道だよ」
「じゃ、みんなと別れて、早く帰ったらいいじゃないか」
「あの小父さんがどうなるか分らないのに、おいら一人で帰れるもんか。今そこの家へ、おっ母が心配しないように、言伝を頼んで来たから大丈夫だよ」
こういいながら、馬と人の間にはさまって歩いてゆく。
その馬の背中から振り向いた女の目は、最前から頻りと次郎に注意している様子でした。
熱海の湯場で永らく一つ宿に泊まり合せていた記憶を、女の方は、あるいは思い出していたでしょう。しかし、次郎はその手ぬぐい被りの女が、あの隠居藤屋の奥にいた、丹頂のお粂であるとはちッとも気がついていない。
岐れ道の石が教えるところでは、川越の城下までまだ、これより三里半。