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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

死ぬか生きるかわからない虫の息の怪我人をこの一行に交じえたので、一同の足なみも何となくしめやかに、馬子が喉自慢の追分も出ません。

*   *   *

ここは徳川家の親屏、秋元但馬守が城主としてすわっている所です。城の塁濠は方六町、市街の橋梁巷路とあわせて、多くは前の城主松平伊豆守の繩取によるとか、織物農穀の産業もゆたかで、川越の城下の繁昌はなかなかであります。

そこの唐人小路の空地に、手ッ取り早い丸太組みの掛小屋が出来かかっている。

「御当地初御目見得、長崎流曲独楽廻し嵐粂吉、近日、賑々しく小屋びらき仕り候」

こんなビラが掛小屋の付近に目につく。

けれど、小屋組みが出来ても、一向表の飾りもつかず、ビラの文字が雨のふるたび流れてゆくのに、いつ賑々しく木戸が開くのか、こいつもおおかた幽霊だぜ、と通りがかりの職人などが笑っていました。

楽屋銀杏

同じ唐人小路の裏通りに、時々、いかものを小屋にかける興行元の親方が住んでいる。

そこのいかもの部屋に、この間うちからゴロゴロしている一組は、厚木を焼け出されて以来、五日市、八王子の宿と流れあるいて来た御難つづきの旅役者の一行です。