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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
でも無理に、五日市や八王子で、変梃なお道化を三、四日売ってみましたが、予期どおりな悪評で、さんざんなていたらく。
そこでまた、見切りをつけた者が、持ち逃げ着逃げをして三、四人一座を抜け、あとに残ったのは、逃げても食えない、居ても食えない連中ばかり。
その結果、襤褸つづらを荷駄にのせて、八王子からこの川越へ、夜逃げ同様に落ちてきたわけでありますが、頼って来たこのいかもの部屋でも、この一行には恐れ入ッて、
「とても、これじゃあ」
と相談にならない。
ところで、興行元は興行元の目があるといえましょう。役者でないお粂の縹緻に目をつけて、
「お前さんが看板になれば、確かに、一枚で売れるがなあ」
と、おだて上げました。
でも、頭数が足らない、衣裳もない、というので興行元の発案が、ここに岩井一座の残党の名をぬりつぶして、曲独楽廻し嵐粂吉の新看板、これで行こうという方針です。
腹のひもじそうな連中から、姐御姐御とすがられると、お粂もこの周囲の人間を、何とか食べさせてゆきたいと考えるし、自分の身も今はどこへというあてのない境遇なので、これはひとつ、浅黄繻子の裃に厚化粧をした嵐粂吉になってみるのも面白いかも知れない。