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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「おじさん、懸人って、なんの事?」
「居候のことさ」
「すると、おいらも居候なんだね」
「おまえは、居候のまた居候」
次郎を相手に他愛なく襟を剃らせながら笑っているところへ、
「へへッ」
と、襖を開けて玄堂が平伏しました。
次郎に襟を剃らせながら、万太郎は不審そうな顔をして、
「だれだい? そこでお辞儀をしているのは」
と、たずねたものです。
平伏した者は、畳に額をすりつけたまま頭も上げ得ないで、
「主の玄堂めにござります」
「あ、御主人であったか。永いこと世話になった上、おかげで傷も本復、わしの方から改めて礼を申さねばならんところを、何だって左様な真似をなさる。さ、手を上げて下さい、お手を」
「勿体ないおことば、いよいよ恐縮仕ります。元々、御身分を承知しておれば、かような御無礼もいたさぬものを、さる高貴のお方とは知らず、先頃からの不作法、何とぞ御仁慈を以て、おゆるし置き下さいますように」
「はてな」
と、万太郎が首を上げましたから、次郎も剃刀を離して、同じように、玄堂のしかつめらしい有様に見とれています。
「はて、どうしたものでござる御主人」
「見るかげもない藪医者を、御主人などと、若殿のお口から滅相もないことで」