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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

探ってみると封金、百両ほどな厚みです。

金吾の一心はただ面箱を取り返したいことにあって、一瞬、何を考えているまもなかったことでしょう。その金を投げるが如く渡すと、うしろへ身を退いて、一散に河ッ童穴を飛び出そうとしましたが、途端に、

「や、釘抜きッ」

「な、なにッ」

「釘抜き、釘抜きが潜りこんでいやがった」

「畜生」

「逃がすなッ」

というすごい騒ぎです。

グワラン! と岩天井の釣灯りが落ちる。百目蝋燭が火のついたままおどる。争闘です。なぐり合いです。仆れる音、打ち合う喚き、暗澹たる暴風が暗やみの洞窟内に渦を巻いて起ったのです。

ダッ――と相良金吾、一足とびに穴を馳け出して来ましたが、どうやら釘勘が密偵ということを見破られて、袋だたきになっている気配。

「取り返す品を手にしたなら、私にかまわず逃げてくれ、あとは捕手の方寸にあるから――」

とは前もってかれがいい切っていたことではあるが、みすみす群盗の中で袋だだきの目にあっている者を見捨てて、おのれの功にのみ急ぐのは、金吾として甚だ忍び得ない行為に違いありません。

でも、人間は迷う。誰にせよこういう場合は、後に浅ましいと思う迷いをする。