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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

といったのは、もう一ツの笠、赭顔総髪の武家体です。

「行ッて見ましょうか」

燕のように、稲とよぶ前髪が、前へ走ろうとするのを抑えて、

「まあ待て、――万太郎は雲霧にまかせてある」

日本左衛門の、あの、静かなことばに紛れもありません。

編笠の本体がわかれば、一方の笠の判断もすぐにつく。無論それは先生金右衛門で、稲というのは千束の稲吉でしょう。

附近を見廻しているのは、少し話のできる掛茶屋を探しているものらしいが、何分、あわただしい市と遊び場と旅人の立て場が一つに混雑している情景なので、これという家も見つからない。

「親分、空き地の向うはどうです」

「ウム、二、三軒見えるな」

「蓮池があります。あれを前にした所は、ちょっと、不忍池のいろはか蓮見茶屋といったあんばいですぜ」

「静かだろう、行って見よう」

三人は、雑鬧の浪を横に抜けて、嵐粂吉の小屋や幟を横に見ながら、じめじめした蓮田のへりを悠々とならんで歩み出しました。

どろりとした青い水面に、富士形の編笠と、丸べりの笠と、前髪の半身の影が、足につれて浮いてゆく。

めし、煮ざかな。

来てみればこんなものです。

「飛んだ蓮見茶屋だ。