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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
と、お粂は肌を入れながら、一人の者が坐れるだけの余地を作って、そこに待っておりました。
出方の男は、楽屋裏の蓆を上げて、
「お待ち遠さま。ちょうど中入だから、太夫さんが会うそうだ。さ、こッちへはいんねえ」
と、外へ呼ぶと、そこに佇立んでいた高麗村の次郎が、
「じゃ、おじさんは、外で待っている?」
と、うしろの連れを振顧りました。
連れがあったのか? と出方の男が外を見廻すと、青い藺笠を被った人品のいい侍が、蓮池のほとりに立って、池の水馬に小石を投げております。
オ。ここで待っている――というふうに万太郎の笠が向うで頷いたのをみると、次郎は男に案内されて、小屋がけのなかに這入って行きましたが、例の、咽るような女芸人の香いに満ちた楽屋を通るに及んで、その白粉ぎたない雑然とした色彩に、目をみはるというよりも、気がおののいてしまいました。
だが、そこを次郎にずかずかと通られた女達も鏡台から首を曲げて、皆、少なからず吃驚した様子です。武蔵野の原や高麗村の山峡におればこそ、さまで人目にも立ちませんが、何しろ次郎には一種怪童的な風貌があります上に、ここへ来てまで、例の杖とも槍ともつかない胆刺を携帯しているので、