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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「そうかい……」と釘勘も初めて知った様子で――「あの半五郎というのは、時々江戸の近くへ出て来ては、よくねえ事をやる男だったので、何の気もなく召捕てしまったが、おめえが半五郎の伜だとは知らなかった。……まあ、そう心配しねえがいい、召捕たと言ったところで、手近な百姓牢に預けて置いたのだから、十日もたてば、百叩きで押ッぽり出されて家へ帰ってるだろう」
それで、次郎も少し安心したふうです。
ところへ、襖が開いて、小侍たちが高足の膳を目八分に持ち、能がかりの足どりでソロリ、ソロリと白足袋のつま先をそろえて来る。
「やあ、やっと御馳走が参ったそうな」
万太郎は席をひらいて、
「さ、次郎もならべ、釘勘も遠慮なく、胡坐のままで頂戴するがいい」
見ると権太夫と河豚内は次の間に平伏して、
「粗肴の上に、何らのおかまいも仕りませぬが、どうぞ御充分にお過ごしのほどを……」
と、御座り奉ッておりました。
「あ。おやじか、どうじゃ、ここへ来てお前も一杯つきあわんか」
「畏れ入りまする。陪臣の身として直々のお流れ、冥加至極に存じます」
「じれッたいやつ、早く取らんか、盃を」
「へへっ」
と、叱られて、権太夫は怖々盃をうけ取って、懐紙をもってそれをぬぐい、またおそるおそる御返盃申し上げる。