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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「もういい」

と、万太郎は素ッ気なく盃を取り返して、

「そちや河豚内がここに筋張ッていると、折角の酒もうまくない。もう用はないから彼方へ退がれ」

そう言って、人を追ッ払ったかと思うと、やがてポンポンと手をたたく、お銚子のおかわりだという、もっと、あッさりしたお肴を持って来いと言う、誰か三味線のひける家来は居ないかと言う、権太夫に来て踊れと言う、河豚内に負ぶッて厠へ連れて行けと言う、酒をもどしそうだから金盥を持参せいと言う、口をふけと言う、背中をさすれと仰っしゃる。

いやもう、ふだんのシラフでさえも大概な七男坊様、酔ッたが最後の助、箸にも棒にもかかりはしません。

かくて、やっと乱酔のまま寝所に納まった万太郎に、ヤレヤレと、河豚内はじめ家来どもは、翌朝、思わずいつもよりは寝過ごしました。

しかるに、

また起き抜け早々、朝ッぱらからの一騒ぎ。

今朝になってみると、万太郎は居ない。

また妙に眼の光る町人も、物騒な棒を持ってあるく変梃な餓鬼も、いつのまにか寝床をもぬけの殻として、風を食らッて出立してしまったふうです。

軍師の旗本

二日ばかりの小雨つづき。

大入りあげくの息抜きに、曲独楽の小屋も休んでおりましたが、いよいよ最後の日を御当地お名残りと触れ出して、木戸を開けたその晩のこと、川越じゅうを、鼎のわくが如くに騒がせ