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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

への往復にも、充分警戒を怠らなかったのです。

で、千束組の暗殺の手もつけ入る隙がない上に、見物を装って小屋へ紛れこんでみても、いつも伊兵衛と馬春堂がそれとなく見張っているので、とうとう千秋楽の日に、投げ短刀の放れ技で、満目環視のなかでお粂を殺してみせようと計りましたが、かれに用意があったため、伊兵衛と馬春堂の書いた狂言は、今も彼等のいっている通り、あんまりうまく当り過ぎました。

「だが、ばかにしていやがる、命の恩人を下座敷に置き忘れておいて、お粂のやつはいつまで何をしているんだ」

やがて馬春堂は、茹で上がった章魚のようになって、

「アアこれこれ、女中ども、女中ども」

と、野暮にぽんぽん手を鳴らしました。

粂吉をここへ呼べと、馬春堂か何かしきりと女中にクダを巻き初めたので、伊兵衛は外聞をはばかりながら、

「おい、よせよせ馬春堂」

「何がよせだ、お粂がここへ挨拶に来ねえという法はない。命の恩人じゃないか、わしやお前は」

「分ったよ、分ったよ」

「一応の礼に来ないというのは怪しからん。誰のために今夜のあぶない所が無事に助かったと思う? エ? 伊兵衛」

「おれに文句をこねたッてしようがあるめえ」