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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「だ、だから、粂吉をここへよこせと申しているんじゃないか。太夫もへッたくれもあるものか、馬春堂先生が用があるといって来いッ。こ、こ、独楽廻しのお粂をちょッとよんで来い」
と、先生は、しゃッくりをしながら呶鳴っております。
二階の大一座のくずれた頃を見計らって、階下へ抜けて来た粂吉は、持て余している女中のうしろから顔を出して、
「まあ、大変な御権式だね」と、笑って、
「粂吉がごあいさつにまいりましたから、馬大尽様、どうか少しお静かにお願い申しましょう」
と、伊兵衛と馬春堂の間に坐りこみました。
先生は大いにテレて、
「まあ、粂吉太夫、御座あらせられましたネ」
「ハイ、おん前に候」
――と粂吉も人を食って、
「ずいぶん久し振りだわねえ」
と、後のおまけに先生の背中をどやしつけました。
それで、計らずもしゃッくりの止まった馬春堂は、けろりとした酔眼をお粂の姿に改めて、
「そうそう、今年の正月、水門尻のお前の家でつかみ合いをやって、あの率八の奴に寒の水を浴びせかけられたきり、会わなかったんだね」
お粂もその時の事を思い出しておかしくなりました。当時、お粂とこの二人とは、何となく気まずい間がらでありましたが、日本左衛門とは縁が切れ、金吾のそばからは離れているお粂であってみれば、伊兵衛や馬春堂がこの女に敵意を持つ理由もなく、お