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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「面倒!」
と焦心だして、この上は、外に出て彼奴らの間道をたずねるか、張番の男を締めあげて問いただしてみる方が早手廻し――と急いでそこを飛びだしてくる。
途端です。
「あっッ」
かれが仰天したのは、釘勘を救うべく、手に抱えていては邪魔だと思って竹置場の青竹の蔭へかくして置いた出目洞白の面箱を引ッさらってゆく男の影が、隅田川に薄陽を落した夕靄をかすめて逃げて行く。
カラカラッと、空に木枯しと聞こえたのは、逃げる弾みに、その男が竹の束に打つかッて鳴ったひびきで、
「おお、うぬ!」
と金吾の姿も林の如く立て掛けてある竹と竹との間をくぐって、飛鳥の如く追いました。
追いつつ先の曲者の姿を見ると、太縞の旅合羽、紺のきゃはん、道中師戸隠の伊兵衛というのはあの野郎です――と釘勘が目で囁いた人相の者にちがいはない。伊兵衛の合羽は逃げ足の早さに吹かれて、蝙蝠の如く風を切っている。
待て! などとこの場合に尋常なことを叫んでいる余裕などはなく、金吾の目はそれを睨んだまま息をつめ、ただ疾風です、ただ懸命です。
ここで折角手に入れた面箱を横からしてやられて堪るものか。
と思うと――材木場の薄暗い迷路の一方から、ひゅッと、烏蛇の弾力に似た一すじの飛繩が、かれの足を巻いて、来の了戒が空光りと共に、おが屑の道に五体をもンどり打たせました