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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
やがてこの一行が、かなり武蔵野の深くへかかった時、驚目に値する一人の女を見かけました。
それは。
一番初めに馬春堂が見つけたので、
「あれ……?」
と、一同に指さしたのが初まりで、みんな等しく足を止めて、その女に小手を翳したものです。
若い娘です。距離があるので、縹緻の好し悪しはわからないが、何しろ、その姿はすばらしく好い。
娘は一頭の白馬に乗って、手に、萩の枝か何かを鞭に持っている。――初めは草深いあなたから、その半身が徐々に見え出し、やがて大きな輪をえがくよう武蔵野を駆け飛ばして来たかと思うと、程なく、一同の立ち止まっている先の小川を一気に跳び越えて、遙かあなたに、その黒髪を思うさま風に吹かせながら、次第に姿を小さくして行く。
「――なんてえお転婆な娘だろう」
と、さすが、ばくれん女のそろっている小屋者の女も男も、あきれ顔に見送って、しばしの汗ばみを忘れています。
それから、またボツボツと馬の鈴と人の足が前へ進み出してから、お粂はたれに話すともなく、
「あれはね、たしか高麗村の狛家とかいう家の娘にちがいないよ。――ああいつか楽屋へやって来たろう、あの次郎という子供の主人さ」