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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「さては、鍛冶小屋に泊まったあの女が……」
といいながら久米之丞は、ブーンと来た熊ン蜂に顔をしかめて、手裏剣をかわすように顔を横にしました。
その郷士の話に依りますと。
鬼女の仮面をたずさえて、八王子の千人町に姿を見せた怪しげな娘は、同所の田能平という質屋にはいッて出る時には、はいッた時と身装がまるで変って出て来たというのであります。
近ごろ、関久米之丞は千蛾老人との約束から、夜光の短刀のことについて、その詮議や考証に他念のない折からでありますが、それと聞いては捨て置くわけにも行きません。
「よろしい、早速行って調べて見よう」
奥へはいって行ったかと思うと、やがて、裾べりの着いた野袴に、海老巻の朱鞘をぼっ込みながら戻って来て、
「千人町の田能平だな」
「あの町通りに、土蔵造りでただ一軒の質屋でございますから、すぐに分るはずで」
「そうか」
と藁草履を突ッかけて、
「暑そうだな、今日は」と、雲の峰を仰ぎながらいう。
縁の隅にあった藺笠を頬にしばりつけて、
「じゃ、御隠家の千蛾様には、その次第を話して、久米之丞が参りましたからには十中八、九取り返してまいりますとお答え申しておいてくれ」