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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ところで、亭主」
「はい」
「もう一つ聞き置くが、その怪しげな女は、当家で身装を更えてから、何処へ行くといっていたであろうか」
――店先では、編笠の浪人が、抛り出した印籠に質の値をつけさせて、番頭を相手に何やら押し問答をしているふうでありました。
田能平の主は小首をかしげておりましたが、やがて思い出したように、
「そういえば、店を出る時、小仏越えの道程を聞いておりました。女の足では難儀でしょうか――などと申しまして」
「ふーム、では甲州路へ向ったな」
「左様かも知れませぬ」
小仏峠へ?
――久米之丞が、じッと思案顔をしていると、店先に腰掛けていた浪人の眼も、編笠のうちで異様な光り方をして、聞かぬ振りをしながら耳を澄ましているかに見えました。
「いや、邪魔をしたな」
と、久米之丞が突然に立ったので、月江も一緒に敷物をすべって、
「うるさい事をたずねて、気の毒をいたしました」
「いえ、どう仕りまして。これ、おはき物がそろえてあるか」
と、主は店先まで送って出る。
そこの上がり框に腰をすえていた浪人が、少し体を避けたので、
「ごめん遊ばせ」
と、月江は女らしく会釈をして、久米之丞と共に質屋の外へ出ましたが、二人がそこを出るとまもなく、浪人は、言い張っていた印籠を番頭の言い値にまけて、なにがしかの金を受け取ると、つづいて、田能