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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
という疑いを充分にふくんでいることばなのです。
「おお、あれか。……滝があるな、この上流に」
「どうして」
「山に籠って、水垢離をしている男だろう」
「なるほど。……では、あいつが行き過ぎるまで、ちょっと一服していようか」
「よかろう」
あの高い所から、一気に降りて来た折なので、異議に及ばず、日本左衛門も腰をおろして、カチ、カチ、と涼しい火打石を磨りました。
そうして、一服吸いながら、彼方の白い人影を気にしていますと、白鳥の如き人影は檜の縞のなかを縫って、やがて、対岸の道にあらわれました。
鞳と流れは飛沫をあげていますが、川幅はわずか十一、二間、彼が対岸に立てばイヤでもこッちの人間を見ましょうし、こッちも最前からやり過ごそうと待っていたところ。
期せずして、奔流をなかに隔てた双者の眼は、そこでピタリと見合いました。
――すると、その刹那に、
「おう!」
と、驚いた対岸の人。
「ややッ?」
と、煙管をさかづかみにして、腰を浮かしたこッち岸の日本左衛門と金右衛門。
ああそも、これなんらの突然。
月白き半島の千鳥ヶ浜以来、ここに再び巡り会いました。
――相良金吾と日本左衛門。