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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

おれには、関東一円、江戸の内外、いたるところに飛耳張目の手下があるから、きッとどいつか見つけるだろう。その時は、いつでもこッちから出張ってやる」

「オオ、忘れるな、その大言を」

「それまでに、せいぜい痩せ腕をみがいて来い」

仇と仇、そこの渓流をなかに挾んで、互いに、睨み合いのまま、白刃にものを言わすことは後日に約して、両岸の道を一方は上流へ一方は下流の方へ、ここに一時の殺気を解いて別れました。

それから二、三町――

上流の方へ歩いて行った先生金右衛門は、あとで、時々うしろを振顧りながら、

「惜しいことをしたじゃねえか」

と、俎に乗せた魚を逃がしたように舌打ちして、義も道理もあるべきでない盗賊に身を落としていながら、どこかに元の浜島庄兵衛という武家気質の失せない日本左衛門の遣口を歯痒がりました。

「まあ、そんなことはどうでもいい」と、彼はすぐに常の様子に返っていて、

「それよりは、さっきの帯はまだ見つからねえか」

「お、この辺だな、投げたのは」

と、空に向ってひとみをつる。

金右衛門のひとみが、絶壁に添うて、ズッと足元まで見下ろしてくる間に、水辺を見廻していた日本左衛門は、ふと、美鱗をもった魚の如き金襴の小布が、奔激する水をくぐッて、浮きつ沈みつしてゆくのに眼を奪られました。