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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
甘酒茶屋
例の、杖とも槍ともつかない棒をたずさえている小僧といえば、それが、高麗村の次郎であることは言わずもがなの事でしょう。
おやじと称した御家老と、河豚内とよんだ用人のいる屋敷から、夜逃げ同様におさらばを告げて、あれから何ものかを求めつつ、この甲州路へ急いだのが、徳川万太郎に目明しの釘勘、及びここに空き腹を持てあましているところの次郎であることも、再度の説明には及びますまい。
ところで、甘酒の釜の前で、しょんぼりしている次郎の様子があまりにも不愍なので、茶屋の婆さんが何かと慰めていると、彼の腰にブッ下げている品物が、どうも、竹の皮に包んだ弁当らしいので、
「お前さん、もしやそこに持っているのは、弁当とは違うのかい」
と、疑わしげに咎めました。
次郎は、腰のそれへ手で触ってみて、
「ああこれかい。これは、今朝宿屋でこしらえてもらった三人分の握り飯さ」
「ばかな衆もあったもンじゃないか」
「なんだい、人をばかだなンて」
「だって、仏様づくる程、お腹が減ッているのなら、何も、水を飲んでいる事はなかろうに。――食べたらいいじゃないか、その弁当をよ」
「いけねえ、いけねえ」