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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

町方衆といえば同心岡ッ引の寄り合場、さしずめここは奉行所の裏門か、その役宅の一部と思われますが、そうとすれば天下の盗賊たる身がうかうか寄りつくべき門構えではありません。

「ちぇッ、いめいめしいやつだ」

実際こんな業腹な捨てられ方はない。このまま尻尾をまいて引下がっては、岡ッ引なかまに甘くも見られるし、第一親分の名にかかわるというもの。

どうしてやろうか?

こう唇を噛みながら腕ぐみをした尺取の目の前に、天秤を渡した八百屋の荷が置いてありました。見ると、その青物のかごに「御門鑑」としるした木札が矢立てと一緒に引っかけてある。

それを取って、矢立てと共に帯の前へさしこむと、尺取は大胆にも、通用口の潜り門をガラリと開けて、閻魔の庁をのぞきました。

「だれだ?」

ひょいと見ると、内側には、菖蒲革の門番と六尺棒とが、その六尺棒を外に立てかけておいて、将棋盤をかこんでいます。

「ええ、お出入りの酒屋です」

「酒屋? 石和屋か角屋か」

「へい、角屋のもので」

「はてな、見かけない男じゃないか。御門鑑を持っておるか。御門鑑を」

「持っております。いつも参りますものが食中りで倒れたりなんかして、店が手不足だもんでございますから」