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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「御門番、お奉行は西側のお役宅だとただ今伺いましたが、西側は同心のお役執場とほかのお長屋で行き止まりのようでございますが、与力衆の詰合かお奉行のお役宅へはどう行ったらよろしゅうございましょうか」

と、大きな声で訊き直しました。

「あ、違ッた、お奉行の方はそこを右へ曲るんだよ、東側の中門の内だ」

「左様でございますか、じゃ、とんでもない方角ちがいで……。へへへへへ」

と、将棋へ顔をそらしている尺取の十太郎を横目に見て笑いました。

意味もない笑い方をして見せたものの、腹のうちでは釘勘も尺取の大胆なのにあきれました。

また尺取も、うまく空とぼけているところへ、不意に釘勘が戻って来たので、あぶなく顔色を変えてさとられるところです。

皆さん、お手を貸して下さい、そいつは尺取という大泥棒なんでございますから――と、釘勘にひとつ指をさされたら、尺取はもう進退きわまるほかありますまい。

が、何と思ったか、釘勘は、

「有難うございました」

門番達に礼をいうと、教えられた中門の奥の方へスタスタと立去ってゆく、次いでまもなく、尺取の姿も将棋のそばからかき消えました。

一刻ばかり時移ると、釘勘は、役宅の一室で、町方与力の蜂屋源之進という男と膝をつきあわせて談合中です。