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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「まだ何か用事があるか」

「土産で思いだしました。――あまり大した代物じゃございませんが、途中から連れて来た小泥棒一匹、この床下まで持って来てありますから、よろしいようにお納めをねがいます」

驚いた尺取が、役宅の床下から逃げ出して行くところを、蜂屋源之進のあわただしい声と共に、ばらばらと駆けつけた奉行所の者が、寄ッてたかッて、高手小手に縛り上げました。

彼が甲府町方の役所を辞して、もとの濠端へ引返して来ますと、思いがけなく、しきりと自分の名を呼ぶものがある。

見ると、道中もさんざんたずねあぐんで来た徳川万太郎です。

小仏で別れた時とは服装もちがい、髪から履物にいたるまで、小洒張と改まっているのがまず釘勘に目をぱちつかせて、

「やあ、若様じゃございませんか、一体どうしたというもんでございます」

万太郎は相変らず、何がどうしたのかというような顔つきで、

「お蝶と日本左衛門とが、この甲府へ来たのをそちは知らないのか」

「多分、それとは思いましたが、あれから甘酒茶屋へ戻ってみますと、次郎と月江というお女中だけで、万太郎様はあの晩から戻らないというお話、また出し抜けを食ったかと、一時はちょッと面食らいましたぜ」