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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
検視、下吟味もすみました。
疑問は、一個の行燈です。――いや、その有明にしたためられた奇怪な文字です。
――お蝶よ今日は汝に会うであろう。そう認めてある下に、明らかに日本左衛門と読まれたあの文字です。
江戸を離れたといっても大府のお膝下をさることわずか三十六里にたらない地です。蜂屋源之進を初め末輩の田舎役人でも日本左衛門の名を知らないものはありません。
「最前、江戸の目明しの言ったことは虚言ではない」
思い合せて慄然とした風です。
それと同時に、領主柳沢吉保の命として、御岳口、石和の関所などへきびしい非常の触れがまわり、城下の主なる番屋には、大盗日本左衛門の人相書がわずか半日で行き渡りました。
片輪の鷹の羽
夜ふかしの疲れで、ものうい稽古三味と物売りの声のほか、昼はげんなりとしたようにいやに静かな色町の横丁で、突然、
「喧嘩だ!」
と、時にとって、小気味のいい声が流れました。
「喧嘩だ、喧嘩だ」
そこで柳町の姐さんたちや、細紐ひとつの飲屋の女たちが、櫺子や格子から昼寝をさました白粉まだらな顔をつきのばしていますと、
「なに、喧嘩がある? 火事と喧嘩はお江戸のものだが、この甲府にもそいつがあるとはたのもしいな。