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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「うしろがあぶない?」
「日本左衛門を初め手下の奴らも、残らず甲府へ寄り集まっている様子です」
「それはわしも存じている。で、吉保に、彼等一味の召捕方を依頼しておいたから、日本左衛門らは袋の鼠、この城下からのがれ出ることはかなうまい」
それについては釘勘も、たった今、町方与力の蜂屋源之進と談合を遂げてきたところなので、二人の予備運動は期せずして一致したわけであります。
すでに、ここまでの間に、先生金右衛門はあのとおりな始末で、駒木野番所から江戸表へ差立ててあるので、幸先もよいし、甲府は二人に地の利をしめていると思える上に、万一の時には、いつでも柳沢家の手を借りうる事になったので、二人はここ数日を逸すべからざる機会と見て、忽ち、城下の巷へ姿をかくしました。
* * *
時刻にすると、ちょうど同じ刻限、釘勘が去ったあとの甲府町方の役宅へ、急を訴えて来た家主があります。
今朝、自分の家作うちに、人殺しがあったと近所の店子同道で訴え出たのであります。
蜂屋源之進はすぐ四、五名の下役をつれて出張しました。場所は濁川から少し東に寄った横丁、被害者は平常から律儀者といわれている、とんぼ売りの久助夫婦。