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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
じゃ、小屋へ行こう」
「小屋へ行ったって、昼間はだれも居やしまいぜ」
「だからよ、だれも居ねえところで、ゆっくり相談をしようって言うんじゃねえか」
と、連れ立って歩むうちに、伊兵衛が馬春堂の腰をそッと突いて、
「あれを見るがいい」
と、辻番所の羽目板を指さしました。
「何か貼ってあるな」
「ウム、人相書だ」
馬春堂はペロリと自分の顔をなでさげて、
「まさか、おれのじゃあるまいな」
「人相書にまわるくらいな盗賊になりゃ大したものだが、まだおめえの顔にゃそれほどの箔は付いていない」
「番屋のそばへ来て大きな声を出すなよ。一体だれのだろう、あの人相書は」
「まあもう少し近づいて見るさ、まんざら知らないやつでもないから」
「ふーム……」
うしろへ手を廻して、馬春堂がしかつめらしく鼻の穴を上げてみますと、それは今番太郎が張出したばかりのもので、糊のかわいていない一枚の紙に半身の似顔が描いてあって、それにこういう箇条がしるされてあります。
京都公卿浪人
異名日本左衛門事、無宿浜島庄兵衛、年二十七歳
身長五尺三寸位
色あさぐろき方、鼻高き方、眉めだちて濃し、右眉の中に黒子、うしろ鬢に小さき刀傷一ヵ所、右御たずねの盗賊見当り次第訴人あるべき事、かくまいだてまたは逃走の伝手をあたえたるものは御法に律して重罪たるべきもの也