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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

すると、その露地の出あいがしらに、

「おお、馬公」

と、自分の方へ、突き当たりそうに駆け出して来た男がある。

道中師の伊兵衛です。ただし、伊兵衛であることはさしつかえありませんが、匕首を持って、左の腕くびに血をにじませているので、

「おい、どうしたんじゃ」

と馬春堂は目を丸くする。

「とうとう四ツ目屋の野郎に、不意打ちを食ったんだ」

「四ツ目屋の新助? じゃ、今の喧嘩だという騒ぎはおまえだったのか」

「何しても油断がならねえ。おい馬公、おめえもいい気持になって、横丁の女にからかってなんかいると、今にみろ、その長い面が御挨拶なしに、胴の方とおわかれをするぜ」

馬春堂は思わず首すじへ手をやってみて、

「オイオイ伊兵衛、なんぼわしの顔が長いって、そう人の顔をみるたびに縁起のわるいことを言うなよ」

「いいにも悪いにも、おれは正直に教えてやるんだ」

伊兵衛はまだ落着かない目で、うしろの通りや横丁をのぞきながら、

「ま、ここじゃ話ができねえ、どこかへ行こう」

「わしは今しがた、飯を済ましてしまったから、酒も何もたくさんじゃ」

と馬春堂は、口の小楊枝を吹いてみせました。

「けッ、友だち甲斐のねえやつだ。