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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

そして――のぞき込んで、

「相良さん……お分りかえ?」

と言ったものです。

金吾のにぶい瞳には、そこに坐った妖艶なお粂のすがたが映っている。

だが、しぼんだ螢草のように、どす黒くなった彼のくちびるは、わななくのみで、かすかにも、もののことばをつづる事ができません。

お粂が鏡台に向って、手ふきの布に、化粧下をそそぐと見せたのは、紫色のビードロに秘められてあったおそるべき魔薬でした。

魔薬と金吾――金吾とお粂、どうしてこうも、ねばりづよき悪縁でしょうか。

こうしておいて、後のしまつは、お粂に何らかの胸算があるらしい。

枕を出して、そのつむりにあてがい、自分の小掻巻をふわりとかけてやります。

そして、

「お前さん、おとなしく待ってるんだよ。……女にこんなまねをさせるのも、みんな、男の罪っていうものじゃないか」

ふかい魔夢に落ちた金吾の頬へ、自分の顔をそっと持ってゆく……

やがては、ものの怪にでもつかれたように、わくわく身をふるわしつつ、なおも金吾の喉笛を食いやぶるようにしがみついて。

気味のわるい妖婦の執拗――泣くともなく、笑うともなく、そして、かい抱くように寄りそったまま、いつまでもそこを離れようともしません。