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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ところへ、門口で、あつらえた駕屋の来た気配がする。
はッと、われに返ったように、お粂はそこを出て来ました。
乗るとすぐに、
「柳町ですね」
「あ、いつもの小屋へ」
駕屋は心得て、その方角へ息杖を上げます。
折から、町にも灯がはいって、洗い上げたような夕方の人通りを、駕屋の足も軽そうに。
* * *
そのあとの事。
お粂が戸じまりをして出て行った留守の家を裏口から、のぞき込んでいた男がある。
鉄砲ざるを背中に掛けたひとりの屑屋。
うさんくさい目つきをして、勝手の外へ、ざるを下ろしたかと思うと、水口の戸へ手をかけて、コトンと、変な音をさせます。
こいつ、空巣ねらいかと見ていますと、四つン這いになって、奥の部屋をのぞきこんだのみで、一物も手にふれず、何かひとりで頷きますと、元の通りに戸を立てて、裏通りから鍋屋小路へ、いやにあわてた足どりで馳け出してゆく。
暗やみ飛脚
玉蜀黍の焦げるにおい、いり豆、味噌おでん、焼きするめの食慾。
見渡すかぎりをよく食べています。
それに、もうもうとこめる煙草の煙や、酒の香や、女の髪あぶらの蒸れるのや、雑音雑臭の交響。