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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

ても投げ銭はおことわり」

――よくしゃべる道化の舌に感服して、ほかに目的があって見物にまじっていた千束の稲吉も、思わず、にが笑いを噛んでいました。

すると、うす暗い八間の明りをたよって、やっと稲吉の姿をさがし出した一人の男が、見物の間を這って来て、

「兄貴、ちょっと」

帯の端を引いたふうです。

見物の目は、みんな舞台に吸いつけられているので、そこから稲吉が抜け出したことなどはさらに問題ではありません。

木戸を出て町を歩き出してゆく。

巷の明りで見ると小屋の中から稲吉を呼び出して来たのは、その夕方、お粂が留守の家をうかがって、何処ともなく立ち去った屑屋です。

「てめえは、何があっても、お粂の家の方を見張っていろというのに、なんだってこッちへ来たのだ」

「でも兄貴、たいへんな事が起ったんで、知らせに来ずにゃいられません」

「なんだ? 大仰に」

「金吾がやられました」

「えっ、秦野屋が殺ったか」

「そうじゃありません、お粂のやつに、うまうまと魔薬をかがされて、一時仆れてしまったんです」

「どこで?」

「きょう、金吾がたずねて行った、お粂の家でです」

「うーむ、して、金吾を尾けていた秦野屋は」